「血の跡が続いてる……!」
――早川秋子、線路の廊下に入って
先発隊が屋敷の各所に残した書き置きには、そのメンバーの名前とおぼしき固有名詞が記されている。名前が書かれているのは、「たかし」「けんじ」「えつこ」「しょうご」の4名であることがだんだん判ってくるだろう(宛て名に「たかし へ」が目立つので、この「たかし」氏がリーダー格なのではないかと思っている)。とうとう我々取材班が、その先発隊のひとりと相見える時が来た。出会いの場となるのが、ここ線路の廊下だ。
廊下に入ってすぐ左手には、たかし氏に宛てた書き置きが残されている。文字の乱れた文面から察するに、書き手は相当の深手を負っているようだ。
線路沿いに進むと、またも左手に、今度は血文字でのメッセージが綴られていた。![]()
壁に血で書いた文字が……!
たかし……書き置きの中に出てきた名前が……!
け…んじ…
えつ…こ…
ま…け…る…な!他の3人の仲間の名が書かれていることから見当はつく。これを残した者の名は「しょうご」なのだ。
残された力を振り絞って仲間たちに発したのであろう、「まけるな」の言葉が重く胸を衝く。
……少し先の右手、廊下の隅に、果たして「しょうご」氏はいた。
「いた」というのは多分、適切な表現だ。なぜなら「しょうご」氏はもう今、この世にいないのだから……。![]()
壁に血で書いた文字が……!
でも、もう……
文字になってない……。
最後の最後になってもなお、決して諦めずに何かを伝えようとした「しょうご」氏の、仲間を愛する不屈の精神。その意志をも、しかし捻じ伏せ砕き去った、間宮夫人の邪悪なる狂気。
死者は還らない。
死すべき理由が見いだせなくても、狂気のために死をもたらされることがどんなに不条理に思えても、訪れた死を戻すことは人に許される業ではないのだから。
今の間宮邸に在るものは、あらゆる怨念と無法、無慈悲と理不尽。これ以上、「しょうご」氏のような善なる者を、妄執への生贄とはさせまい……「しょうご」氏に手向ける一輪の花こそ持たなくとも、それを補うべく間宮夫人の鎮魂への決意を新たにし、その場を後にする一行だった。
「骸骨がある……。
きっとこの人が書き置きを残してた人……。
きっと悔しかったでしょう……」――早川秋子、「しょうご」氏の遺体を前にして