「ただ愛するがゆえに、死の待つ館へ」

序章



「スウィートホーム 箱取説付 ¥7,000」。

これはとあるショップで付けられている値段。『メタルスレイダーグローリー』とか『パノラマコットン湯呑み付き』には及ばないものの、プレミアソフトと呼ばれてもおかしくないほどの実売価格だ。『スウィートホーム』への評価がいかに高いものであるか、この値段が物語っている。

『スウィートホーム』は、伊丹十三監督作の同名のホラー映画※1を元にしたRPGだが、邦画をちょっとでも観る人でないとこの映画のことはご存知ないかもしれない。筆者も当時のCMの「スウィ〜トホォムゥ」という不気味なヴォイスが印象に残っているだけで実際に観たことはない※2が、映画通の知人に聞くとどうやらコケたようである。邦画の常だ(偏見)。

そういった映画『スウィートホーム』ではあるが、ゲームの方の出来は驚くほど秀逸。のちに『バイオハザード』を作ることになるスタッフが本作に携わっているのはよく知られた話で、その恐怖の演出にはさすがの一言。

画家の間宮一郎が死後に遺したフレスコ画を求めて、間宮邸を訪れた5人の取材班。取材を試みる5人の前に、怨念に狂った間宮夫人の霊が現れ、屋敷の出口を塞いでしまう。彼らは屋敷の謎を解き、見事脱出することができるのだろうか……という筋書き。

ジャンル的には見下ろし型の典型的な画面構成のRPGだが、フィールド全てが間宮邸という、街も宿屋も存在しない巨大なダンジョン。大胆な発想である。

筆者はといえば、小学生の頃に本作を友人から借りてプレイしたが、本気で怖くて※3序盤で返してしまったくらいで、その恐怖は今プレイしてもそう色褪せてはいない。シナリオが一本道なのは仕方ないが、普通のRPGのように適当にウロウロしていれば勝手に話が進むなんてことは断じてなく、随所にちりばめられたトラップや謎に、プレイヤー自身が頭を働かせて立ち向かうことが求められる。ストーリーも、原作映画とは全く違った独自のものを使っている※4のだそうで、元がコケてもこれなら安心だ。

原作ものは、原作付きというだけで出来を疑われるもの。原作が不人気なら特にそうだが、この『スウィートホーム』は不遇な例外と言っていいだろう。お世辞にもメジャータイトルとは言えないが、ならば出来の悪いのに7000円の値が付くとはなおさら思えない。本作をプレイした人は異口同音に「名作だ」と感動を覚えているし、中には『バイオ』より面白いと評する人さえいるのだ。

恐怖とは何か、まざまざと教えてくれるであろう『スウィートホーム』。このたび裸100円で買ってきたのをタダで貰った(肉村マサユキさんその節はどうも)ので、これを機に本作を攻略し、その鮮やかな妙味を読者諸兄に知らしめてゆきたい。小学生時代の恨み、晴らさでおくべきか!

 

※1 手元の資料によると、実際は製作総指揮・伊丹十三、監督・黒沢清ということになっている。主演はもちろん伊丹十三の嫁さん(=宮本信子)。伊丹先生本人も出ている。伊丹作品はいつもこうだがまるで家内制手工業だ(映画通談)。

※2 〔――2001年3月20日追記――〕 レンタル落ちした中古ビデオ(950円)を買って観たところ、10年以上前の映画としてはかなりのSFX技術だと思った。序盤の各キャラの掛け合いは楽しくていいのだが、その分展開がだるいとも感じる。ホラーを求めて今観るには物足りないだろうが、「ファンなら買い」かも知れない。

※3 「はんしんおとこ(半身男)」という敵と遭遇して泣きそうになり、恐怖をごまかすため「はんしんおとこがおんねんやったら『きょじんおとこ』もおるんかなあ」などと寒い冗談を考案して余計に怖くなったことを今でも鮮明に覚えている。

※4 『ユーズドゲームズ』にそう書いてあった。


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