間宮夫人との戦いは、通常の戦闘という概念からはかけ離れている。誤解を懼れずに言うならば、それは一種の儀式である。ひとつの儀式における全ての手順は、成文ないし不文の細密なる規定に沿って、忠実にかつ粛然と運ばれねばならない。間宮夫人戦の要諦はまさにその点にあるのであり、挑戦者の一挙手一投足が儀式の定める厳格なるルールに合致してはじめて、この儀式は戦いの勝利へ向けて進行することとなる。ともかくも敵を破壊することが勝利に直結し、破壊をもたらすためならいかなる攻撃に訴えてもよいという通常の戦闘とは、本質的に異なるという事実を我々は肝に銘ずるべきである。
儀式の誤りは、人間社会にあっては恥や当惑を――そして間宮との戦いにおいては死の危険を意味する。生還への最後のステップを成功に導くため、この間宮夫人戦という儀式の仔細をここにまとめたい。
――間宮夫人戦 攻略の流れ――
第一
形態1. 殺してやる!! みんな……死んでしまえ!! …………………………………………………………〈どぐう〉を使用 2. 私たちは幸せに暮らしている!! 邪魔をするな!! ………………………………………………………〈しゃしん〉を使用 3. きゃー!! …………………………………………………こころのちからで攻撃
第二
形態4. グガーッ!! し……ね…!! ………………………………………………………………通常攻撃 5. いち……ろ…う……わた…し…をあい…して…る…… …………………………………………………………〈にっき〉を使用 6. ああ………… …………………………………………………こころのちからで攻撃 7. ギギ……ギギギ………し……ね…!! ………………………………………………………………通常攻撃 8. こど…もを……か…え…せ!! ………………………………………………〈こどものひつぎ〉を使用 9. ガ…ガ…! あ…か…ちゃ…ん!! わたしの……あか…ちゃん!! …………………………………………………こころのちからで攻撃
間宮夫人戦では、双方の台詞を伴った攻撃の応酬が繰り広げられる。上の表は、夫人がそれぞれの台詞を吐いているとき、こちらはどのような行動を選ばねばならないかを示す。所記以外の行動は、基本的に間宮夫人に対して何らの効果も発揮しはしない。したがって上の各手順を忠実に履行しない限り、間宮夫人を斃すことは絶対に不可能である。心の力が必要ないステップでは「こころのちからは ひつようない!」と警告されるし、通常攻撃をすればいつでもダメージは通っているかのような表示がなされるのだが、実際の効果がある場面は実に限られている。
概念的には、上の各ステップがそれぞれ全く別の敵キャラで、心の力が必要なステップでは心の力でしか減らせないHPを、アイテムが必要なステップでは無限大のHPを持っていると考えてもいいだろう。
行動が有効だったなら、轟音とともに画面がフラッシュするエフェクトでそのことを示してくれる。また時間が経ちすぎると「駄目だ! もう一度はじめからだ!」 と言われ、ステップを戻されてしまうので注意が必要だ。
「間宮夫人だ……!」
全ての始まり、そして全ての終わり
まみやふじん (第一形態)
間宮一郎の妻の霊。
焼却炉の事故で子供を失った精神的外傷により発狂した彼女はある日、ついに村の子供たちをさらって焼却炉にくべるという非道に手を染める。村人たちが事実に気付き、夫人を問い詰めるため大挙して間宮邸に集まったとき、彼女は自らの命を絶ったという。30年前のことである(一部映画版設定)。
子供とともに永遠の眠りについていたはずの夫人は、子供の供養塔が何者かに荒らされたというショックにより、この世に覚醒してしまう。30年前から凍りついた時間の中で、自分が今なお夫や子供と幸せに暮らしていると思い込んでいる夫人は、侵入者のこの暴挙に怒り狂った。その後、夫人の霊は邸に取り憑き、連れ去られた我が子を求めて彷徨うようになる。訪れる者を、皆殺しにしながら……。
閉ざされた世界からの出口を求めて彷徨していたのは、あるいは彼女自身だったのかもしれない。
敵キャラとしては通常攻撃をかけてくるだけであり特殊能力を持たないが、こちらの物理的な攻撃は上表からお判りのとおり一切通用しない。映画版の秋子さんも椅子を投げたりスキを振り回したりと応戦したものの全くの無力だったという故事もあり、本作は映画のシチュエーションを忠実に再現していると言える……のか?
――土偶と写真――
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暗黒空間の奥深く、ついに取材班と間宮夫人とは相対することになった。こちらは攻撃を行うたびに、「何人殺せば気が済むんだ!?」 「元の世界へ帰りなさい!」 「あなたの子供は死んだのよ!」 と、怒りをあらわに叫ぶ(画面写真参照)。
対する夫人も、<なぜ起こした!! なぜそっとしておかない!!> <私の赤ちゃんを返せ!!> との恨み言を口走る。
激しい応酬が繰り広げられる中、夫人は3分の1の確率で次の台詞を言うだろう。ちなみにこの台詞を言うまではこちらが何をやってもムダである。
<殺してやる!! みんな……死んでしまえ!!>我々は、決戦の前に耳にした山村老人の助言を思い出す。
――間宮が殺すと叫んだら、土偶を使いなさい。
万一ここで〈どぐう〉を持っていなければ戦闘は進行せず、やがてゲームオーバーは確定なのだが……持っているなら手にした〈どぐう〉を天にかざそう。刹那、轟音とともに閃光が走る!
……何が起こったのかイマイチ定かではないものの、戦況は進展する。夫人の台詞は次のように変わるだろう。
<私たちは幸せに暮らしている!!
邪魔をするな!!>
それは夫人の悲しい夢。彼女の時間は、幸せだった30年前のあの日のまま凍りついているのだ。そんな夫人に我々が示したのは、一枚の古い〈しゃしん〉だった。
――写真は、間宮に現実を教えるために使いなさい。
「これは、あなたが生きていた時の写真。もう30年も昔のことだ!」
「あなたたちが暮らしていた時代は、もう終わったのよ!」
すでに、夫人自身は気付いているのかもしれない――自分の言っていることが偽りの夢に過ぎないという事実に。「幸せに暮らしている」と殊更に強調する口ぶりからは、そんな印象も受ける。だが残酷な現実を認めたくないのなら、我々が認めさせてやるまで。罪人である夫人は、十字架を背負うべきなのだ。
客観的な証拠を提示された夫人は、明らかに動揺した。<きゃー!!>
あなたには可哀相だが、それが現実だ――夫人の心をさらに衝き動かすべく、我々はこころのちからを行使する。またしても、轟音とともに閃光が走るだろう。
次の瞬間、取材班はそこに夫人の真の姿を見た。
「間宮夫人が、変身した……!」
ラスボスの姿は公開しないのが世の常識なんですが…
まみやふじん (第二形態)
かつては間宮一郎の妻の霊であったもの。今やそれは、夫人の霊と殺された子供たちの怨念とが引き合うことにより、巨大な霊的存在と化している。
怨念をその身に吸収した夫人の霊は、自らその負荷に苦しんでいる様子でもある。口調もたどたどしくなり、恐らく思考もままならないのだろう。
夫人を苦しみから解放できるのは、長い旅路の果てに子供の亡骸を手にした、あなたたち取材班に他ならない。彼女とその家族が共にいられる常世の国へ、夫人とその子供を還してやるのだ。
性能的には、通常攻撃しか行わないという点で第一形態と変わらない。ただ第二形態には、こちらが通常攻撃を行わないと先に進まないフェイズがあるとだけ指摘しておこう。
なお万一、〈にっき〉か〈こどものひつぎ〉のどちらかをパーティーの誰も所持していなかった場合、右の画面写真に見えるようなメッセージが変身直後に表示される。そして画面のフラッシュとともに戦闘は突然中断され、パーティーは暗黒空間の外まで戻してもらえるのだ。
第一形態では、アイテムの欠けた状態でこんなリトライの機会を与えてくれるサービスなんかなかったのに、ここだけ何だかイヤに親切設計である。
――日記と柩――
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30年前の幸せな暮らしの思い出の中に閉じこもることにより、辛うじて人の姿だけは保ってきた間宮夫人。だがそれも覆された今、夫人は失った子供との繋がりを求める執念そのものの存在と化した。<グガーッ!! し……ね…!!>
不思議なことには、夫人がこのように殺意をあらわにしている間だけは、人の手による刃をもって彼女に傷を負わせることができるようだ。剣で躊躇なく斬りつけ、矛で容赦なく突き刺す。
やがて、傷の痛みに耐えかねてだろうか? 彼女は夫との思い出にすがりつこうとする……。
<いち……ろ…う……
わた…し…を
あい…して…る……>
……だがそれも、現実ではないのだ。畳み掛けるように、我々は間宮に伝える。亡き夫がどんな思いをその〈にっき〉に書き残していたか……。
――日記を使えば、一郎の気持ちを伝えることができる。
「一郎も苦しんでいた……。その苦しみを考えたことがあるか!?」
<ああ…………>
次々と現実を知るや夫人は自暴自棄となり、しばらくは無意味な殺意をばらまくだろう。しかし強い心を持った人間の振るう刃は、夫人の霊魂の体をも断ち斬る。
やがて夫人の叫びは、最も欲していたものを求める声へと転ずる。<こど…もを……か…え…せ!!>
我々には、その望みに応える用意があるはずだ。〈こどものひつぎ〉を夫人の前に差し出す……。
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――あなたの子供は、もうこの世にはいないのだ。
――子供のいる場所、あなたのいるべき場所へ還るといい。
そんな思いを込めながら。
<ガ…ガ…! あ…か…ちゃ…ん!!
わたしの……あか…ちゃん!!>
最後には、あなたから。旅立つ夫人にどうか強いこころのちからを。
長かった戦いが、終わる。